ニューロ
今日も疲れて大学から帰ってくる私一(はじめ)は家で寝る。
目を開けると白い空間に寝たきりの人がいて、BPMが一定のリズムを示していた。
「x^y-y^x=0」(エックスのワイ乗マイナスワイのエックス乗イコールゼロ)
自明な解はあるが、非自明な解はあるだろうか?
目が覚めると何の変哲もない自宅のベッドにいた。朧げながらあの人の顔は覚えていたが、私の中にはあの式しか残っていなかった。
通学電車の中で私はあの式について考えていた。移行して両辺をxyの逆数乗すれば、対照的になるので増減からみて最大元はe(ネイピア数)だと思う。負の方向はあまりに複雑すぎて考えたくもない。またx^(1/x)+→1なので非自明な解は{2,3,4}らへんにあるだろう。そもそも4=2^2なので解の一つは{2,4}で、他の正整数解が存在する可能性はほぼないだろう。
目的の駅に着くといつもの大学へ向かう。一浪して通っているが、単位はある程度取っていた。しかしある掲示板の紙に気づいた。そこには計算機論という単位があった。私はすぐにそこに示されていた講義に参加し、チューリングマシンやノイマンマシンについての仕組みを勉強した。
家に帰りベッドに横になったが、今日はなかなか寝付けなかった。
目を開くとやはりその人がいた。私は解を伝えるため、その人の人差し指と薬指に触れた。その時突然心拍波形が変わった。
「x^y-y^x=1」
私は少し考えているうちに周りが暗くなっていき、目が萎んだ。
目が咲めると、普段より爽やかな朝だった。
大学でガロア理論についての講義を受けている途中で、私はあの式について思案していた。{1,2,3,4}の中であの式を満たすのは{2,1},{3,2}のみだ。他の正整数解も存在しそうだが、私はこの式に取り憑かれて講義はぼんやりと聞いていただけだった。
家に帰り、大学で習った線形代数を復習しているうちに徐々に眠くなった。
---はっと気づくと私は何も見えていないことがわかった。しかし、逆に考えれば自分が思考していることも理解できた。また四肢も自由に動かせた。つまりここはあの空間だ。私は必死にあの人を探し、人差し指と親指に触れ、その後に中指と人差し指に触れた。その瞬間視界が広がり、あの白い空間に戻っていた。さらにはPOMが変わっていた。
「x^y-y^x=3/2」
私はすぐにxとyが正整数でないことがわかり、それと同時に起きていた。
「十」
大学付属の図書館に行き似たような式を探したが、それらしきものは無かった。自習机で小さな正整有理式で試したが、そもそも無理数と無理数の差が3/2になりえるだろうか?
よくよく考えると、有理数も実数も閉じているので、3/2になる可能性はある。しかし、定義域を複素数に広げると、この式はあまりにも複雑だ。少しの間目を閉じて、十に初めて会った時のことを思い出すうちに、あることに気づいた。負整数について考えていないことを。
{-1,-2}は解であることに気づいたが、なぜこんなにも簡単なのだろう。
帰りの電車で十のことを考えていた。例えば、1+1=2はどうだろう。子供の頃に習ったが、今思えばとても不思議な式だ。2進数なら1+1=10だし、文字列結合なら1+1=11だ。つまり十は数学の基礎であり、十によって数学が生まれたのであろう。
家に帰りベッドを縦にひっくり返してから、目を閉じる。その間数学が生まれた場所について考えていた。
気がつくと、薄暗い場所にいた。妖怪でも幽霊でも出そうな所に十はいた。そして、十は言った。
「x^y+y^x=2e^e」
私は答えを言いそうになったが、式があまりにも易しかったので、口をうまく動かせなかった。なので目を動かして、十に伝えた。
「x^y-y^x=2e^e」
十は少し微笑んでいた。
「0」
目が鮫ると、元いた場所に戻っていた。そして十が目の前にいる。十はこう言った。
十「パスワードを当ててみて」
一「つまり先程の答えか」
私は式変形して、この問いが自分には力不足であることを悟った。
十「わかったら、教えて」
起きると今までと同じベッドの上にいた。
しかし、十には必ず解を伝えたい。